オづれて、
ニホヒイリスや和蘭陀薄荷《おらんだはつか》のしめりを戦《そよ》がせ、
ぢつと、私が凝視《みつ》むる、
小酒杯《リキユグラス》の透明な無色《むしよく》の火酒《ウオツカ》を顫はし、
黄緑《くわうりよく》の外光《ぐわいくわう》を浴《あ》びた青年の面《かほ》のうへを、
なめらかに砥石《といし》のやうな青みを、
Poe の頬のやうな手ざはりを、
すいすいと剃刀《かみそり》のやうに触れる、

私は無言《むごん》で冷《つめ》たい小酒杯《リキユグラス》をとりあげ、
しみじみと赤い唇《くちびる》にあてる……

五月が来た、五月が来た。
楠《くす》が萠え、ハリギリが萠え、朴《ほう》が萠え、篠懸《すずかけ》の並木が萠える。
そうして、私の
新しいホワイトシヤツの下から青い汗《あせ》がにじむ、
植物性の異臭《いしゆう》と、熱《ねつ》と、くるしみと、……
芽でも吹きさうな身体《からだ》のだらけさ、
(何でもいいから抱《だ》きしめたい。)
萠える、萠える、萠える、萠える、
青い髯が
ウオツカの沁み込む熱《あつ》い頬《ほ》の皮膚《ひふ》から萠える。……

くわつとふりそそぐ日光、
冷《つめ》たい風、

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