ンに、
さうして、私の剃《そ》りたての青い面《かほ》の皮膚《ひふ》に、
黄緑《くわうりよく》の Passion を燃えたたせ、顫はす
日光の痛《いた》さ、
その眩《ま》ぶしい音楽は負傷兵《ふしやうへい》の鳴らす釣鐘のやうに、
恢復期《くわいふくき》の精神病患者がかぎりなき悲哀《ひあい》の Irony に耽けるやうに、
心も身体《からだ》も疲《つか》らした
その翌日《あくるひ》の私の弱い瞼《まぶた》のうへに、
キラキラとチラチラと苦《にが》い顫音《せんおん》を光らす、
強く絶えず、やるせなく……

午前十一時半、
公園の草わかばの傷《いた》みに病犬《びやうけん》の黄《きいろ》い奴《やつ》が駈けまわり、
禿げた樹木《じゆもく》の梢がそろつて新芽《しんめ》を吹く、
螺旋状《らせんじやう》の臭《にほひ》のわななきと、底力《そこぢから》のはづみと、
Whiskey の色に泡《あわ》だつ呼吸《いき》づかひと……
而《さう》して、わかい男の剃りたての面《かほ》の皮膚の下から
青い髯が萠える……

五月が来た。
どこかしらひえびえとした微風《びふう》が
閃《ひら》めく噴水《ふんすゐ》の尖端《さき》から
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