ォいし》をゆく、
そのなかに溶《と》けつつあるものの小歌《リイド》。

やはらかによわく、ほそく、
そは裁縫機械《ミシン》のごとく幽かに、
いそがしく、
さまざまの光を放ちつつ滴《したた》る。

喪心《さうしん》のたのしさを聴け。
薄暗き地下室《セラ》の厨女《くりやめ》よ、
湯沸《サモワル》の湯気の呼吸《いき》も
玉葱のほとりにしづごころなし。

丸の内の三号、
その高き煉瓦より、筧より、また廂より、
かくれたる物の芽に沁《し》みたる無数の宝玉の溶解《ようかい》、
温かに劇薬のながれ湿《しと》る音楽……

わが憂愁は溶《と》けつつあり、
黄色く、赤く、みどりに、
屋根の雪は溶けつつあり、
光りつつ、つぶやきつつ、滴《したた》りつつ……[#地から3字上げ]四十三年六月
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青い髯
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  青い髯

五月《ごぐわつ》が来た。
硝子と乳房との接触《せつしよく》……桐の花とカステラ……
春と夏との二声楽《ヂユエツト》、冷めたい冬……

とりあつめた空気の淡《うす》い感覚に、
硝子戸のしみじみとした汗ば
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