を》さ、いたましさ、
生温《なまぬ》るき風《かぜ》のごと骨《ほね》もなき手《て》は動《うご》く――その空《そら》に※[#「金+肅」、第3水準1−93−39]銀《しやうぎん》の鐘《かね》はかかれり。
ああ、ああ、今《いま》しがたまでぞ、この硝子戸《がらすど》の外《そと》には
五|時《じ》ごろの日《ひ》の光《ひかり》わかわかしき血《ち》のごとくふりそそぎ、
見《み》えざる窓下《まどした》のあたりより、
抑圧《おさ》えあへぬ抱擁《はうえう》の笑《わら》ひ声《ごゑ》きこえしか――葱畑《ねぎばたけ》すでに青《あを》し。
※[#「金+肅」、第3水準1−93−39]銀《しやうぎん》の鐘《かね》よりは一条《ひとすぢ》の絹《きぬ》薄青《うすあを》く下《さが》りて光《ひか》る。
その端《はし》をはづかに取《と》りたる手《て》は、その瞳《ひとみ》は、
ああ、すべて力《ちから》なし。――さらにさらに痛《いた》ましきはかかる青《あを》き薄暮《くれがた》の激《はげ》しき官能《くわんのう》の刺戟《しげき》。
聴《き》け、遂《つひ》に、彼《かれ》は泣《な》く。……
あらず、そは馴染《なじ》みたる黒猫《くろねこ
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