B
静かな三分間。
悩ましい棕梠の花の官能に、今、
蒸し暑い魔睡がもつれ、
暗い裂けた葉の縁《ふち》から銀の憂欝《メランコリイ》がしたたる。
その陰影《かげ》の捕捉《とら》へがたき Passion の色、
歯痛の色の黄《きな》、沃土ホルムの黄《きな》、粉つぽい亢奮の黄《きな》。
Neon. Flourum. Magnesium.
Natrium. Silicium. Oxygenium.
Nitrogenium. Cadimium or, Stibium
etc., etc.……
[#地から3字上げ]四十三年三月
骨なし児と黒猫
そは恐《おそ》ろしきXなり。淫《みだ》らにして不倫《ふりん》なる母《はは》のごとく、
汝《な》が神経《しんけい》と知覚《ちかく》とは痛《いた》ましきほど慄《わなな》けども、力《ちから》なき骨《ほね》なし児《ご》よ。
終日《ひもすがら》、わづらはしき病室《びやうしつ》の白葡萄酒《はくぶどうしゆ》の如《ごと》き空気《くうき》に呼吸《こきふ》し、
霊《たましひ》のうつらぬ瞳《ひとみ》は唯《ただ》狂《くる》はしき硝子戸《がらすど》の外
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