驕c…

汽笛が鳴る……四谷を出た汽車の Cadence《カダンス》 が近づく……

暮れ悩む官能の棕梠
そのわかわかしい花穂《ふさ》の臭《にほひ》が暗みながら噎《むせ》ぶ、
歯痛の色の黄、沃土ホルムの黄、粉つぽい亢奮の黄。

寂しい冷たい教師の声がきこえる、そして不可思議な……
そこここの明《あか》るい角※[#「窗/心」、第3水準1−89−54]のなかから。
Sin ……, Cosin ……. Tan ……, Cotan ……. Sec ……, Cosec ……. etc ……
Ion. Dynamo. Roentgen. Boyle. Newton.
Lens. Siphon. Spectrum. Tesla の火花
摂氏、華氏、光、Bunsen. Potential. or, Archimedes. etc, etc……
棕梠のかげには野菜の露にこほろぎが鳴き、
無意味な琴の音の稚《をさ》なびた Sentiment は
何時までも何時までもせうことなしに続いてゆく。
汽笛が鳴る……濠端《ほりばた》の淡《うす》い銀と紫との空に
停車《とま》つた汽車が蒼みがかつた白い湯気を吐いてゐる
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