さり、
裁判《さばき》はてし控訴院《こうそゐん》に留守居《るすゐ》らの点《とも》す燈《あかり》は
疲《つか》れたる硝子《がらす》より弊私的里《ヒステリイ》の瞳《ひとみ》を放《はな》つ。

いづこにかすずろげる春の暗示《あんし》よ……
陰影《ものかげ》のそこここに、やや強く光|劃《かぎ》りて
息《いき》ふかき弧燈《アアクとう》枯《かれ》くさの園《その》に歎《なげ》けば、
面《おも》黄《き》なる病児《びやうじ》幽《かす》かに照らされて迷《まよ》ひわづらふ。

朧《おぼろ》げのつつましき匂《にほひ》のそらに、
なほ妙《たへ》にしだれつつ噴水《ふきあげ》の吐息《といき》したたり、
新《あたら》しき月光《つきかげ》の沈丁《ぢんてう》に沁《し》みも冷《ひ》ゆれば
官能《くわんのう》の薄《うす》らあかり銀笛《ぎんてき》の夜《よ》とぞなりぬる。[#地から3字上げ]四十二年二月

  鶯の歌

なやましき鶯のうたのしらべよ……
ゆく春の水の上、靄の廂合《ひあはひ》、
凋《しを》れたる官能《くわんのう》の、あるは、青みに、
夜《よ》をこめて霊《たましひ》の音《ね》をのみぞ啼《な》く。

鶯はなほも啼く……
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