から横組み]“PAN”[#ここで横組み終わり]とわが「屋上庭園」の友にささぐ
[#ここで字下げ終わり]
[#改丁]

[#ここから5字下げ、ページの左右中央に]
東京夜曲
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]

  公園の薄暮

ほの青き銀色《ぎんいろ》の空気《くうき》に、
そことなく噴水《ふきあげ》の水はしたたり、
薄明《うすあかり》ややしばしさまかえぬほど、
ふくらなる羽毛頸巻《ボア》のいろなやましく女ゆきかふ。

つつましき枯草《かれくさ》の湿《しめ》るにほひよ……
円形《まろがた》に、あるは楕円《だゑん》に、
劃《かぎ》られし園《その》の配置《はいち》の黄《き》にほめき、靄に三つ四つ
色|淡《うす》き紫の弧燈《アアクとう》したしげに光うるほふ。

春はなほ見えねども、園《その》のこころに
いと甘き沈丁《ぢんてう》の苦《にが》き莟《つぼみ》の
刺《さ》すがごと沁《し》みきたり、瓦斯《ガス》の薄黄《うすぎ》は
身を投げし霊《たましひ》のゆめのごと水のほとりに。

暮れかぬる電車《でんしや》のきしり……
凋《しを》れたる調和《てうわ》にぞ修道女《しゆうだうめ》の一人《ひとり》消え
前へ 次へ
全96ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
北原 白秋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング