A
けふの夜食《やしよく》も焼《やき》パンにジヤムと牛乳《ミルク》を購《か》はんとぞ思ふ。
かかる間《ま》も白銅のこひしさに
通《とほ》りすがる肥満女《ふとつちよ》の葱《ねぎ》もてる腕《かひな》に倚《よ》りてうち挑《いど》む。
薄暮《くれがた》の河岸《かし》のあかしや、二本《ふたもと》の海岸《かし》のあかしや、
その葉のゆめの金糸雀《かなりや》のごとくに散《ち》るころを、
またしてもくちずさむ、下品《げひん》なる港街《みなとまち》の小唄《こうた》。
青き青き溝渠《ほりわり》の光は暮れてゆく……

わかきニキタはぼんやりと薄笑《うすゑみ》しつつ、……
十月の枯草《かれくさ》の黄《き》なるかがやき、そがかげのあひびきの
浮《うは》つきし声のかすれを思ひいで、
また外光《ぐわいくわう》の紫《むらさき》に河岸《かし》の燕《つばめ》の飛び翔《かけ》りながら隙見《すきみ》する
瞳《ひとみ》青きフランス酒場《さかば》の淫《たは》れ女《め》が湯浴《ゆあみ》のさまを思ひやり、
あるはまた火事ありし日の夕日のあたる草土堤《くさどて》に
だらしなく擁《かか》へ出されて薫《かを》りたる薄黄《うすき》の、赤の乳
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