緕O時の郷愁《ノルタルヂヤア》……
※[#ローマ数字2、1−13−22] S組合の白痴
夕まぐれ、石油問屋《せきゆどひや》の|S組合《エスくみあひ》の入口に、
つめたき硝子戸《がらすど》のそと、
うち潤《しめ》る石油色《せきゆいろ》の陰影《いんえい》の中《うち》、薄《うす》ら光《ひか》る銀《ぎん》の引手《ひきて》のそばに
薄白痴《うすばか》のわかきニキタは紫の絹ハンケチを頸《くび》にむすび、
今日《けふ》もまたのんべりだらりと立《たち》ん坊《ぼう》の河岸の
便所に凭《もた》るるごとく、
のろまな
その鈍《にぶ》き容態《なりふり》のいづこにか猾《ずる》き眼《め》を働《はた》らかせにやにやと笑ひつつあり。
日は向《むか》う河岸《がし》の家畜病院《かちくびやうゐん》の頽《すた》れたる露台《バルコン》を染め、
入口の硝子戸の前に薬《くすり》塗《ぬ》らるる色|黄《き》なる狂犬《きやうけん》を染め、
隣《とな》れる健胃固腸丸《けんゐこちやうぐわん》の広告に苦《にが》き光を残しつつ沈みゆく。
S組合の薄白痴《うすばか》は
石油ににじむ赤き髪《け》に雑種児《あひのこ》の矜《ほこり》を思ひ
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