「ろ》の光のなかに
太《ふと》くしてむくつけき黒人《こくじん》の手ぞ
働《はたら》ける……甘き甘きあるものを掻きいださんとするがごとく。
その前に負傷《ふしやう》したる敵兵《てきへい》三人《みたり》、――
あるものは白き布《ぬの》にて右の腕《かひな》を吊《つる》したり――
日に焼けたる絶望《ぜつまう》の顔をよせて
そこはかとなきかかる日の郷愁《ノスタルヂヤア》に悩むがごとく
珍《めづら》かにうち眺めたる……足もとの黄色《きいろ》なる花
湿りたる土の香《か》のさみしさに※[#「日/咎」、第3水準1−85−32]《かげ》りつつうち凋《しを》る。
鐘は鳴る……銀色《ぎんいろ》の教会《けうくわい》の鐘……
硝子※[#「窗/心」、第3水準1−89−54]《がらすまど》のなかには
薄色《うすいろ》の青き眼《め》がねをかけたる女、
かりそめのなやみにほつれたる髪かきあげて、
薬罎《くすりびん》載せたる円卓《ゑんたく》のはしに肱《ひぢ》つきながら
金字《きんじ》見ゆるダンヌンチオの稗史《はいし》を閉《とざ》し、
静かなる杏仁水《きやうにんすゐ》のにほひにしみじみときき惚《ほ》れてあり。
ああ午
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