閨A
葉かげの水面《みのも》は銀色《ぎんいろ》の静寂《しづけさ》を織《お》る。
白くして悩める眼鏡橋《めがねばし》のうへを
鉄輪《かなわ》を走らしつつ外科医院《げくわゐゐん》の児は過ぎゆき、
気の狂ひたる助祭《じよさい》は言葉なく歩み来る。

鐘を撞け、鐘を撞け、
恐ろしき銀色《ぎんいろ》の鐘を……

この時、近郊《きんかう》を殺戮《さつりく》したる白人《はくじん》の一揆《いつき》は
更にこの静かにして小《ちひ》さなる心の領内《りやうない》を犯さんとし、
すでにその鎗尖《やりさき》のかがやきはかなたの丘の上に閃《ひら》めけり。

正午過ぎ……一分……二分……三分……
日は光り、そよとの風もなし。

   2

ある日、わが※[#「窗/心」、第3水準1−89−54]の硝子《がらす》のしたに、
覆《くつがへ》されたる蜜蜂の大きなる巣《す》激《はげ》しく臭《にほ》ひ、
その周囲《めぐり》に数《かず》かぎりなき蜂の群《むれ》音《おと》たてて光りかがやき、
粗末《そまつ》なる木《き》の函《はこ》へすべり入り、匍《は》ひめぐる。
かがやかしき歓喜《くわんき》と悲哀《ひあひ》!
すべてこの銀色《ぎん
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