ホ《にふりよく》の、青の、沃土《えうど》の、
催笑剤《わらひぐすり》や泣薬《なきぐすり》、痲痺剤《しびれぐすり》や惚薬《ほれぐすり》、そのいろいろの音楽《おんがく》の罎。
さて組合の禿頭《はげあたま》のトムソンが赤つちやけたる鹿爪《しかつめ》らしき古外套《ふるぐわいたう》ををかしがり、
恐ろしかりし夏の日のこと、どくだみの臭《くさ》き花のなかに
「キ…ン…タ…マ…が…い…た…い」と
白粉《おしろい》厚《あつ》き皺《しは》づらに力《ちから》なく啜《すす》り泣きつつ、
終《つひ》に斃れし旅芸人《たびげいにん》のかつぽれが臨終《りんじゆう》の道化姿《どうけすがた》ぞ目に浮ぶ。
今|瓦斯《ガス》点《つ》きし入口の撻《ドア》押しあけて
石油の臭《にほひ》新らしく人は去る、流行《はやり》の背広《せびろ》の身がるさよ。
いつしかに日は暮れて河岸《かし》のかなたはキネオラマのごとく燈《あかり》点《つ》き、
吊橋《つりばし》の見ゆるあたり黄《き》なる月|嚠喨《りうりやう》と音《ね》も高く出でんとすれど、
あはれなほS組合の薄白痴《うすばか》のらちもなき想《おもひ》はつづく……
※[#ローマ数字
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