でが腹立たしかつた。がまた溜まらず可哀《かは》ゆくもあつた。そんな時は弟のおちんこに飛びついていぢくりまはした。
 その私よりも、次郎公は鋭い。私は彼が弟の上に乗しかかつて、そのちよつぴりと膨れてちくちくと尖つた、可憐な昆虫のやうな朝顔の蕾のやうな小男根をビクビクと息づいてゐるやつを、大きな鋏を開いて凝《ぢつ》と差寄せた瞬間の彼の神経の鋭さ、その沈着と大胆と、それから一息に根元からチヨキンと切り落した瞬間の神的決断と、人間性の無意識的快感これを思ふと恐ろしくなる。
 この突き詰めた真実と直覚。荘厳な性慾の萌芽。
『恐ろしい感覚だ。少くとも彼奴《きやつ》はすばらしい神童だつたに違ひない。』
 私は舌をまいて讃嘆したがまた、顫《ふる》へ上るほど恐ろしくなつた。
 彼《あ》の子の如く愛憎の念が奥ふかく、純真で、一図で子供ながらにも責任感が堅く、自《おのずか》らにしてまた頭領としての見識も備はり、而かも前に云つたやうに沈着で、大胆で、決断力が強く、猛勢な精力と神秘的直感力を有してゐる子供が、幸にして麗かな天日の下にのびのびと生ひ立ち、よく愛されよく教育されよく生長して行つたならば、果たしてどれ
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