間も少しも油断はしてゐなかつた。
自分の監視下にある弟がお粗相をした。と思つた瞬間、その弟を折檻するのは自分の役目で、それはまた、母親からも喜ばれる事と思つたに違ひない。いきなり弟に乗しかかつて、傍にあつた鋏を取ると、その小さな、また可燐な、恰度朝顔の蕾のやうに尖つた、ヒクヒク動いてゐるそのおちんこをいきなり、チヨンと切り落として了つた。根元からチヨンと一つ。
曾ての母親が確かに不謹慎であつた。まだ神のやうな純潔白紙のやうな子供に滅多な事を云ふものではない。
そこは子供である。兄の子は、弟のおちんこをチヨンと一つ切り落す事が、それほどの一大事とは思ひがけなかつたにちがひない。一つ折檻して、たしなめたら、それはそれで済んで、また一緒に面白く遊べるものと思つてゐたに違ひない。彼は無論弟を愛しきつてゐたからだ。またその弟が死んぢまつてそれつきりだとは思ひがけない事だ。第一まだ五歳ばかりの子供に人間の死などゝいふ大問題がわからう筈も無いのだ。
チヨンと鋏が一つ鳴つた、と、弟の小さな男根はピヨンと弾みをつけた昆虫のやうに飛ぶ、弟はウンと引つくり反る、血がシユウツとその股間から噴出す。四辺
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