は永久《とこしへ》にうらわかい町の処女に依て斎《いつ》がれ(各の町に一体づつの観世音を祭る、物日にはそれぞれある店の一部を借りて開帳し、これに侍づくわかい娘たちは参詣の人にくろ豆を配り、或は小屋をかけていろいろの催をする。さうしてこの中の資格は処女に限られ、縁づいたものは籍を除かれ、新しい妙齢《としごろ》のものが代つて入る。)天火《てんび》のふる祭の晩の神前に幾つとなくかかぐる牡丹に唐獅子の大提灯は、またわかい六騎の逞しい日に焼けた腕《かひな》に献げられ、霜月親鸞上人の御正忌となれば七日七夜の法要に寺々の鐘鳴りわたり、朝の御講に詣づるとては、わかい男女夜明まへの街の溝石をからころと踏み鳴らしながら、御正忌|参《めえ》らんかん…………の淫らな小歌に浮かれて媾曳《あひびき》の楽しさを仏のまへに祈るのである。
沖の端の写真を見る人は柳、栴檀、石榴、櫨などのかげに、而も街の真中を人工的水路の、水もひたひたと白く光つては芍薬の根を洗ひ洗濯女の手に波紋を画く夏の真昼の光景に一種のある異国的情緒の微漾を感ずるであらう。あの水祭はここで催され藍玉の俵を載せ、或は葡萄色の酒袋を香《にほひ》の滴るばかり
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