さて知らじ、さきの世のゆめ。


 男の顏


ふと見てし男の顏は
夜目《よめ》ながら赤く笑ひき。

そことなく、囃子《はやし》きこえて
水祭《みづまつり》ふけし夜のほど、
乳母の背《せ》にわれねむりつつ、
見るとなく彼を憎みぬ。

その顏は街《まち》の灯かげを、
あかあかと歩みつつあり。
乳母もさは添ひてかたりぬ。
かくて世《よ》にわれただひとり。
大太皷《おほだいこ》人は拊《う》ちつけ
後《うしろ》より絶えず戲《おど》けて
嘲りぬ。――われは泣きにき。


 水ヒアシンス


月しろか、いな、さにあらじ。
薄ら日か、いな、さにあらじ。
あはれ、その仄《ほの》のにほひの
などもさはいまも身に沁む。

さなり、そは薄き香《か》のゆめ。
ほのかなる暮の汀《みぎは》を、
われはまた君が背《せ》に寢て、
なにうたひ、なにかかたりし。

そも知らね、なべてをさなく
忘られし日にはあれども、
われは知る、二人《ふたり》溺れて
ふと見し、水ヒアシンスの花。


 鵞鳥と桃


なにごとのありしか知らず、
人さはに立ちてながめき。

われもまた色あかき桃
掌《て》にしつつ、なかにまじりぬ。

河口に
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