き臺辭《せりふ》も忘れ、極《きま》り惡《わ》るさに俯向《うつむ》いて了つた――その前を六騎の汚《きた》ない子供らが鼻汁《はな》を垂らし、黒坊《くろんぼ》のやうな赭《あか》つちやけた裸で、不審《ふしん》さうに彼らが小さな主人公の顏を見かへりながら、張合もなく何時までも翻筋斗《とんぼがへり》をしてゐた事を思ひ出す。
 あの日はまた穀倉の暗い二階の隅に幕を張り薄青い幻燈の雪を映《うつ》しては、長持のなかに藏《しま》つてある祭の山車《だし》の、金の薄い垂尾《たりを》をいくつとなく下げた、鳳凰の羽《はね》の、あるかなき幽かな囁きにも耳かたむけた。
 かうした間にも夏の休暇《やすみ》には必ず山をたづねた。さうして柳河の Tonka John はまたその一郷の罪もない小君主であつた。路に逢ふほどの農人はみな丁寧にその青い頬かむりを解《と》いて會釋した、私はまた何事もわが意の儘に左右し得るものと信じた。而して自分ひとりが特別に天の恩寵に預つてるような勝ち誇つた心になつてたゞ我儘に跳ね囘つた。
 黒馬《あを》にもよく乘つた、玉蟲もよく捕へては針で殺した、蟻の穴を獨樂の心棒でほぢくり囘し、石油をかけ、時に
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