かなしきものは刺あり、
傷《きず》つき易きこころの
しづかに泣けばよしなや、
酒にも黴《かび》のにほひぬ。

  20

目さまし時計の鳴る夜に
かなしくひとり起きつつ
倉を巡囘《まは》れば、つめたし、
月の光にさく花。

  21

わが眠《ぬ》る倉のほとりに

青き光《ひ》放つものあり、
螢か、酒か、いの寢ぬ、
合歡木《カウカノキ》のうれひか。

  22

倉の隅にさす日は
微《ほの》かに光り消えゆく、
古りにし酒の香にすら、
人にはそれと知られず。

  23

青葱とりてゆく子を
薄日の畑にながめて
しくしく痛《いた》むこころに
酒をしぼればふる雪。

  24

銀の釜に酒を湧かし、
金の釜に酒を冷やす
わかき日なれや、ほのかに
雪ふる、それも歎かじ。

  25

夜ふけてかへるふしどに
かをるは酒か、もやし[#「もやし」に傍点]か、
酒屋男のこころに
そそぐは雪か、みぞれか。


 酒の精


『酒倉に入るなかれ、奧ふかく入るなかれ、弟よ、
そこには怖ろしき酒の精のひそめば。』
『兄上よ、そは小さき魔物《まもの》ならめ、かの赤き三角帽の
西洋のお伽譚《とぎばなし》によ
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