は薄荷《はつか》の如く、
水車しづかにすべり、ピエローは泣きてたどりぬ。

ほの青きほの青き幻燈の雪の夜景に
われはまた春をぞ思ふ、
マンドリン音《おと》をひそめしそのあとの深き恐怖《おそれ》に、
ふりつもる雪、ふりつもる雪、…………ゆゑわかぬ性の芽生は
青猫の耳の顫へをわが膝に美くしみつつ。


 雨のふる日


わたしは思ひ出す。
緑青《ろくしやう》いろの古ぼけた硝子戸棚を、
そのなかの賣藥の版木と、硝石の臭《にほひ》と、…………
しとしとと雨のふる夕かた、
濡れて歸る紺と赤との燕《つばくらめ》を、

しとしとと雨のふる夕かた、
蛇目《じやのめ》傘を斜《はす》に疊んで、
正宗を買ひに來た年増《としま》の眼つき、…………
びいどろの罎を取つて
無言《だま》つて量《はか》る…………禿頭《はげあたま》の番頭。

しとしとと雨のふる夕かた、
巫子《みこ》が來て振り鳴らす鈴《すゞ》…………
生鼠壁《なまこかべ》の黴《かび》に觸《さは》る外面《おもて》の
人靈《ひとだま》の燐光。

わたしは思ひ出す。
しとしとと雨のふる夕かた、
叉首《あいくち》を拔いて
死なうとした母上の顏、
ついついと鳴い
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