》吸ひつき、日は赤し、
明《あか》り障子の沈丁花。
NOSKAI
堀の BANKO をかたよせて
なにをおもふぞ。花あやめ
かをるゆふべに、しんなりと
ひとり出て見る、花あやめ。
かきつばた
柳河の
古きながれのかきつばた、
晝は ONGO [#「ONGO」に「*」の著者註]の手にかをり、
夜は萎《しを》れて
三味線の
細い吐息《といき》に泣きあかす。
(鳰《ケエツグリ》のあたまに火が點《つ》いた、
潜《す》んだと思ふたらちよいと消えた。)
* 良家の娘、柳河語
AIYAN[#「AIYAN」に「*」の著者註]の歌
いぢらしや、
ちゆうまえんだ[#「ちゆうまえんだ」に傍点]のゆふぐれに
蜘蛛《コブ》が疲《つか》れて身をかくす、
ほんに薊の紫に
刺《とげ》が光るぢやないかいな。
(*ANTEREGAN の畜生はふたごころ。わしやひとすぢに。)
1、下婢、兒守女、柳河語。
2、あの畜生?
曼珠沙華
GONSHAN. GONSHAN. 何處《どこ》へゆく、
赤い、御墓《おはか》の曼珠沙華《ひがんばな》、
曼珠沙華《ひがんばな》、
けふも手折りに來たわいな。
GONSHAN. GONSHAN. 何本《なんぼん》か、
地には七本、血のやうに、
血のやうに、
ちやうど、あの兒の年の數《かず》。
GONSHAN. GONSHAN. 氣をつけな、
ひとつ摘《つ》んでも、日は眞晝、
日は眞晝、
ひとつあとからまたひらく。
GONSHAN. GONSHAN. 何故《なし》泣くろ、
何時《いつ》まで取っても曼珠沙華《ひがんばな》、
曼珠沙華、
恐《こは》や、赤しや、まだ七つ。
牡丹
ほんにの、薄情《はくじやう》な牡丹がちりかかる。
風もない日に、のう、
紅《あか》い牡丹が、のうもし、ちりかかる。
ひらきつくした二人《ふたり》がなかか、
雨もふらいで、のうもし、ちりかかる。
氣まぐれ
逢ひに來たち[#「ち」に「*」の著者註]の
日の照り雨のふるなかを、
Odan mo iya, Tinco Sa!
しやりむり別れたそのあとで、
未練《みれん》な牡丹がまたひらく。
Odan mo iya, Tinco Sa!
[#数字は1字下げ、説明は3字下げ]
1、ちの[#「ちの」に傍点]は雅言のとや[#「とや」に傍点]なり。來たの、來たんですつて。柳河語。
2、Odan はわたしなり、Tinco Sa は感嘆詞なり、全體の意味はあら厭だよ、まあ。同上。
[#ここで字下げ終わり]
道ゆき
鰡《ぼら》と黒鯛《ちんのいを》と、
黒鯛《ちんのいを》と、
鰡と、のうえ[#「のうえ」は小さい文字]
肥前山をば、やんさのほい[#「やんさのほい」は小さい文字]、けさ越えた、ばいとこずいずい[#「ばいとこずいずい」は小さい文字]。
後家《ごけ》と、按摩《あんま》さんと、
按摩さんと、
後家と、のうえ[#「のうえ」は小さい文字]
蜜柑畑から、やんさのほい[#「やんさのほい」は小さい文字]、昨夜《よべ》逃げた、ばいとこずいずい[#「ばいとこずいずい」は小さい文字]。
目くばせ
門づけのみふし[#「みふし」に「*」の著者註]語《がた》りがいうことに
高麗烏《かうげがらす》のあのこゑわいな。
晝の日なかに生れた赤子
埋《う》めた和尚が一人《ひとり》あるぞえ。
古寺の高麗烏《かうげがらす》のいふことに、
みふし[#「みふし」に傍点]語《がた》りのあの絃《いと》わいな。
今日《けふ》も今日とて、かんしやくもちの
振《ふ》られ男がそこいらに。
* 鄙びた粗末なる一種の琵琶を抱きて卑近なる物語を歌ひながらゆく盲目の門づけなり、地方特殊のものにてその歌ひものをみふし[#「みふし」に傍点]と云ふ。[#この註、2行目以降は3字下げ]
あひびき
きつねのてうちん[#「きつねのてうちん」に「*」の著者註]見つけた、
蘇鐵のかげの黒土《くろつち》に、
黄いろなてうちん見つけた、
晝も晝なかおどおどと、
男かへしたそのあとで、
お池のふちの黒土に、
きつねのてうちん見つけた。
*毒茸の一種、方言、色赤く黄し。
水門の水は
水門《すゐもん》の水は
兒をとろとろと渦をまく。
酒屋男は
半切《はんぎり》鳴らそと櫂を取る。
さても、けふ日のわがこころ
りんきせうとてひとり寢る。
六騎
御|正忌《しやうき》[#「御正忌」に「*」の著者註]參詣《めえ》らんかん、
情人《ヤネ》が髪結ふて待《ま》つとるばん。
御正忌|參詣《めえ》らんかん、
寺の夜《よ》あけの細道《ほそみち》に。
鐘が鳴る、鐘が鳴る。
逢うて泣けとの鐘が鳴る。
*親鸞上人の御正忌なり。
梅雨の晴れ間
※[#「廴+囘」
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