、第4水準2−12−11、339−4]《まは》せ、※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11、339−4]《まは》せ、水ぐるま、
けふの午《ひる》から忠信《ただのぶ》が隈《くま》どり紅《あか》いしやつ面《つら》に
足どりかろく、手もかろく
狐六法《きつねろつぽふ》踏みゆかむ花道の下、水ぐるま…………
※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11、340−1]《まは》せ、※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11、340−1]せ、水ぐるま、
雨に濡れたる古むしろ、圓天井のその屋根に、
青い空透き、日の光、
七寶《しつぽう》のごときらきらと、化粧部屋《けしやうべや》にも笑ふなり。
※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11、340−5]《まは》せ、※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11、340−5]せ、水ぐるま、
梅雨《つゆ》の晴れ間《ま》の一日《いちにち》を、せめて樂しく浮かれよと
※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11、340−7]り舞臺も滑《すべ》るなり、
水を汲み出せ、そのしたの葱の畑《はたけ》のたまり水。
※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11、341−1]《まは》せ、※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11、341−1]せ、水ぐるま、
だんだら幕の黒と赤、すこしかかげてなつかしく
旅の女形《おやま》もさし覗く、
水を汲み出せ、平土間《ひらどま》の、田舎芝居の韮畑《にらばたけ》。
※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11、341−5]《まは》せ、※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11、341−5]せ、水ぐるま、
はやも午《ひる》から忠信《ただのぶ》が紅隈《べにくま》とったしやつ面《つら》に
足どりかろく、手もかろく、
狐六法《きつねろつぽふ》踏みゆかむ花道の下、水ぐるま…………
韮の葉
芝居小屋の土間のむしろに、
いらいら沁みるものあり。
畑《はたけ》の土のにほひか、
昨日《きのふ》の雨のしめりか。
あかあかと阿波の鳴門の巡禮が
泣けば…………ころべば…………韮《にら》の葉が…………
芝居小屋の土間のむしろに、
ちんちろりんと鳴いづる。
廉《やす》おしろひのにほひか、
けふの入り日の顫へか、
あかあかと、母のお弓がチヨボにのり
泣けば…………なげけば…………蟲の音が…………
芝居小屋の土間のむしろに
何時しか沁みて芽に出《づ》る
まだありなしの韮の葉。
旅役者
けふがわかれか、のうえ、
春もをはりか、のうえ、
旅の、さいさい、窓から
芝居小屋を見れば、
よその畑《はたけ》に、のうえ、
麥の畑《はたけ》に、のうえ、
ひとり、さいさい、からしの
花がちる、しよんがいな。
ふるさと
人もいや、親もいや、
小《ちい》さな街《まち》が憎うて、
夜《よ》ふけに家を出たけれど、
せんすべなしや、霧ふり、
月さし、壁のしろさに
こほろぎがすだくよ、
堀《ほり》の水がなげくよ、
爪《つま》さき薄く、さみしく、
ほのかに、みちをいそげば、
いまだ寢《ね》ぬ戸の隙《ひま》より
灯《ひ》もさし、菱《ひし》の芽生《めばえ》に、
なつかし、沁みて消え入る
油搾木《あぶらしめぎ》のしめり香《が》。
底本:「柳河版 思ひ出」御花
1967(昭和42)年6月1日初版発行
1978(昭和53)年2月25日6版
底本の親本:「抒情小曲集 おもひで」東雲堂書店
1911(明治44)年6月5日初版発行
※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と、価値、加えて、作者の抱えた限界を読者自身が認識することの意義を考慮し、底本のまなとしました。(青空文庫)
※「飜」と「翻」、「鵞」と「鵝」、「没」と「歿」、「鼓」と「皷」、「穀」と「※[#「轂」の「車」に代えて「米」]」、「参」と「參」、「涼」と「凉」、「虫」と「蟲」の混在は底本のママ。
入力:Nana ohbe
校正:林 幸雄
2002年1月31日公開
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全35ページ中35ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
北原 白秋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング