しの韮の葉。


 旅役者


けふがわかれか、のうえ、
春もをはりか、のうえ、
旅の、さいさい、窓から
芝居小屋を見れば、

よその畑《はたけ》に、のうえ、
麥の畑《はたけ》に、のうえ、
ひとり、さいさい、からしの
花がちる、しよんがいな。


 ふるさと


人もいや、親もいや、
小《ちい》さな街《まち》が憎うて、
夜《よ》ふけに家を出たけれど、
せんすべなしや、霧ふり、
月さし、壁のしろさに
こほろぎがすだくよ、
堀《ほり》の水がなげくよ、
爪《つま》さき薄く、さみしく、
ほのかに、みちをいそげば、
いまだ寢《ね》ぬ戸の隙《ひま》より
灯《ひ》もさし、菱《ひし》の芽生《めばえ》に、
なつかし、沁みて消え入る
油搾木《あぶらしめぎ》のしめり香《が》。



底本:「柳河版 思ひ出」御花
   1967(昭和42)年6月1日初版発行
   1978(昭和53)年2月25日6版
底本の親本:「抒情小曲集 おもひで」東雲堂書店
   1911(明治44)年6月5日初版発行
※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と、価値、加えて、作者の抱えた限界を読者自身が認識することの意義を考慮し、底本のまなとしました。(青空文庫)
※「飜」と「翻」、「鵞」と「鵝」、「没」と「歿」、「鼓」と「皷」、「穀」と「※[#「轂」の「車」に代えて「米」]」、「参」と「參」、「涼」と「凉」、「虫」と「蟲」の混在は底本のママ。
入力:Nana ohbe
校正:林 幸雄
2002年1月31日公開
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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