な》よ。
ほのに汝《な》を嗅《か》ぎゆくここち、
QURACIO《キユラソオ》 の酒もおよばじ。

いつはあれ、ものうき胸に
痛《いたみ》知るささやきながら、
わかき火のにほひにむせて
はばたきぬ、快楽《けらく》のうたは。

そのうたを誰かは解《と》かむ。
あえかなる罪のまぼろし、――
濃《こ》き華の褐《くり》に沁みゆく
愛欲《あいよく》の千々《ちぢ》のうれひを。

向日葵《ひぐるま》の日に蒸すにほひ、
かはたれのかなしき怨言《かごと》
ゆるやかにくゆりぬ、いまも
絶間《たえま》なき火のささやきに。

かくてわがこころひねもす
傷《いた》むともなくてくゆりぬ、
あな、あはれ、汝《な》が香《か》の小鳥
そらいろのもやのつばさに。
[#地付き]四十年九月


  舗石

夏の夜《よ》あけのすずしさ、
氷載せゆく車の
いづちともなき軋《きしり》に、
潤《うる》みて消ゆる瓦斯《がす》の火。

海へか、路次《ろじ》ゆみだれて
大族《おほうから》なす鵞《が》の鳥
鳴きつれ、霧のまがひに
わたりぬ――しらむ舗石《しきいし》。

人みえそめぬ。煙草《たばこ》の
ただよひ湿《しめ》るたまゆら、
辻なる※
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