て
壁の湿潤《しめり》を玻璃《はり》に蒸す光の痛《いた》さ。
力《ちから》なき活字《くわつじ》ひろひの淫《たは》れ歌《うた》、
病《や》める機械《きかい》の羽《は》たたきにあるは沁み来《こ》し
新《あた》らしき紙の刷《す》られの香《か》も消《き》ゆる。
いんき[#「いんき」に傍点]や尽きむ。――はやもわがこころのそこに
聴くはただ饐《す》えに饐《す》えゆく匂《にほひ》のみ、――
はた、滓《をり》よどむ壺《つぼ》を見よ。つとこそ一人《ひとり》、
手を棚《たな》へ延《の》すより早く、とくとくと、
赤き硝子《がらす》のいんき[#「いんき」に傍点]罎《びん》傾《かた》むけそそぐ
一刹那《いつせつな》、壺《つぼ》にあふるる火のゆらぎ。
さと燃《も》えあがる間《ま》こそあれ、飜《かへ》ると見れば
手に平《ひら》む吸取紙《すひとりがみ》の骸色《かばねいろ》
爛《ただ》れぬ――あなや、血はしと[#「しと」に傍点]、と卓《しよく》に滴《したた》る。
[#地付き]四十年九月
真昼
日は真昼《まひる》――野づかさの、寂寥《せきれう》の心《しん》の臓《ざう》にか、
ただひとつ声もなく照りかへ
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