音《ソプラノ》の入り雑《まじ》り、埃《ほこり》たつ家《や》なみのうへに、
色にぶき土蔵家《どざうや》の江戸芝居《えどしばゐ》ひとり古りたる。
露《あら》はなる日の光、そがもとに三味《しやみ》はなまめき、
拍子木《へうしぎ》の歎《なげき》またいと痛《いた》し古き痍《いたで》に、
かくてあな衰《おとろへ》のもののいろ空《そら》は暮れ初む。
F 赤き恐怖
わかうどよ、汝《な》はくるし、尋《と》めあぐむ苦悶《くもん》の瞳《ひとみ》、
秀でたる眉のゆめ、ひたかわく赤き唇《くちびる》
みな恋の響なり、熟視《みつ》むれば――調《しらべ》かなでて
火のごとき馬ぐるま燃《も》え過ぐる窓のかなたを。
はた、辻の真昼《まひる》どき、白楊《はこやなぎ》にほひわななき、
雲浮かぶ空《そら》の色|生《なま》あつく蒸しも汗《あせ》ばむ
街《まち》よ、あな音もなし、鐘はなほ鳴りもわたらね、
炎上《えんじやう》の光また眼《め》にうつり、壁ぞ狂《くる》へる。
人もなき路のべよ、しとしとと血を滴《したた》らし
胆《きも》抜《ぬ》きて走る鬼、そがあとにただに餞《う》ゑつつ
色赤き郵便函《ポスト》のみくるしげに
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