轣tに真赤《まつか》な雲《くも》のいろ。
玻璃《はり》に真赤《まつか》な酒《さけ》の色《いろ》。
なんでこの身《み》が悲《かな》しかろ。
空《そら》に真赤《まつか》な雲《くも》のいろ。
[#地付き]四十一年五月


  秋のをはり

腐《くさ》れたる林檎《りんご》のいろに
なほ青《あを》きにほひちらぼひ、
水薬《すゐやく》の汚《し》みし卓《つくゑ》に
瓦斯《がす》焜炉《こんろ》ほのかに燃《も》ゆる。

病人《やまうど》は肌《はだ》ををさめて
愁《うれ》はしくさしぐむごとし。
何《な》ぞ湿《しめ》る、医局《いきよく》のゆふべ、
見《み》よ、ほめく劇薬《げきやく》もあり。

色《いろ》冴《さ》えぬ室《むろ》にはあれど、
声《こゑ》たててほのかに燃《も》ゆる
瓦斯《がす》焜炉《こんろ》………空《そら》と、こころと、
硝子戸《がらすど》に鈍《に》ばむさびしさ。

しかはあれど、寒《さむ》きほのほに
黄《き》の入日《いりひ》さしそふみぎり、
朽《く》ちはてし秋《あき》の※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]オロン
ほそぼそとうめきたてぬる。
[#地付き]四十一年十二月


  十月の顔

顔なほ
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