けさや、靄《もや》の古《ふる》びを
黄蝋《わうらふ》は燻《くゆ》りまどかに
照りあかる。吐息《といき》そこ、ここ、
哀楽《あいらく》のつめたきにほひ。
今《いま》しこそ、ゆめの歓楽《くわんらく》
降《ふ》りそそげ。生命《いのち》の脈《なみ》は
ゆらぎ、かつ、壁にちらほら
玻璃《はり》透《す》きぬ、赤き火の色。
[#地付き]三十九年八月
微笑
朧月《ろうげつ》か、眩《まば》ゆきばかり
髪むすび紅《あか》き帯して
あらはれぬ、春夜《しゆんや》の納屋《なや》に
いそいそと、あはれ、女子《をみなご》。
あかあかと据《す》ゑし蝋燭《らふそく》
薔薇《さうび》潮《さ》す片頬《かたほ》にほてり、
すずろけば夜霧《よぎり》火のごと、
いづこにか林檎《りんご》のあへぎ。
嗚呼《ああ》愉楽《ゆらく》、朱塗《しゆぬり》の樽《たる》の
差口《だぶす》抜き、酒つぐわかさ、
玻璃器《ぎやまん》に古酒《こしゆ》の薫香《かをりか》
なみなみと……遠く人ごゑ。
やや暫時《しばし》、瞳かがやき、
髪かしげ、微笑《ほほゑ》みながら
なに紅《あか》む、わかき女子《をみなご》。
母屋《もや》にまた、おこる歓語
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