香ひの狩猟者
北原白秋

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)萎《しな》へる

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)[#「つつみがまえ+にすい」、第3水準1−14−75、237−12]
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     1

幽かに香ひはのぼる。蕾のさきが尖つてゐるのは内からのぼる香ひをその頂点でくひとめてゐるのだ。花がひらいた時は香ひもひらいてしまふ。残りの香のみの花を人は観てゐる。

     2

開いた朝顔が萎《しな》へると蕾のやうになる。それもちぢれて蕾の巻いた尖りは喪はれ、香ひのみか色までが揉みくちやだ。その上に落ち散つた象《すがた》を紙巻煙草の吸殻のやうだといへば乾く。火鉢の灰の中に散らばる紙巻煙草の吸殻を朝顔の散り花のやうだといへば香ひがつく。ものは言ひやう、喩は感じ方なのだ。

     3

風が香ひをつたへるのでない。香ひが風をすずろかせるのだ。

     4

風上に置けぬ臭ひなら、風下にも置いてよい筈はない。風はともあれ、臭ひは十方吹き廻しだからである。
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