桐の花とカステラ
北原白秋

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)吹笛《フルート》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)実際|触《さは》つて

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「木+解」、第3水準1−86−22]
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 桐の花とカステラの時季となつた。私は何時も桐の花が咲くと冷めたい吹笛《フルート》の哀音を思ひ出す。五月がきて東京の西洋料理店《レストラント》の階上にさはやかな夏帽子の淡青い麦稈のにほひが染みわたるころになると、妙にカステラが粉つぽく見えてくる。さうして若い客人のまへに食卓の上の薄いフラスコの水にちらつく桐の花の淡紫色とその暖味のある新しい黄色さとがよく調和して、晩春と初夏とのやはらかい気息のアレンヂメントをしみじみと感ぜしめる。私にはそのばさばさしてどこか手さはりの渋いカステラがかかる場合何より好ましく味はれるのである。粉つぽい新らしさ、タツチのフレツシユな印象、実際|触《さは》つて見ても懐かしいではないか。同じ黄
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