い日本の子供にはっきりわかるし、このほうがずっと簡潔でいいからである。こんな場合の地名は除けた。しかし、この例もほかにはめったにない。たいがい生かすべき固有名詞は生かした。
それからまた、日本語になおす場合に、語法の相違から、動詞の過去を現在格にしたり、そのまま直訳するよりも、かえってピタと本質的にその意に合う日本語がある場合は、その無意味な直訳は避けた。その真精神にそむくばかりでなく、日本語としても生きないからである。
それから、正直に「うまく返事をしてのけた」と訳したでは、かえってその本当の面目が出ない場合は「うまく返事をしてのきょか」というふうにしたのもある。
それからまた、「二十四人の仕立屋がででむしころしにいきました」を「二十四人の仕立屋がででむしころしにえっさっさ」とやったのもある。意は同じでも、えっさっさのほうが一列に、活動人形そのままになって、足がさくさくとおなじに動くからである。
それからみだりがましくてちょっと困るのは多少気品をよくするために手加減したのがある。
で、こういうのは例外であるけれども、それだからといって充分意識してやっているのであるから、詩法を知らぬ語学者から頭ごなしに誤訳呼ばわりをされたくない。
ただ、学力の不足のためか、うっかりしたためにとんでもないまちがいをしたことがあるかもしれない。そうした条々がもしあればどうか御教示にあずかりたくお願いする。
私はそれらの内容と動律の本質とをわが日本の民謡語であたう限り生かしきろうとつとめた。生かしえたなればありがたい。創作するとほとんど同様の誠意と熱心とをこれに傾けたのもこのゆえである。で、ある意味においては半ば私の創作ともいえよう。
[#地から2字上げ]以上
底本:「まざあ・ぐうす」角川文庫、角川書店
1976(昭和51)年5月30日初版発行
1995年1月30日24版発行
親本:アルス版全集(1925年刊)
入力:藤本篤子
校正:八巻美恵
1998年1月21日公開
2006年1月8日修正
青空文庫作成ファイル:
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