ャックは卵をうりにでる。
それをかおうと猶太人《ジュウ》の悪者《わる》、
おもう半値もつけないで、
うまうまジャックをちょろまかす。

ジャックはお嫁とりにゆきまする。
むこうのおじょうさん華美《はで》好きで、
それはかわいい、うつくしい、
花の山査子《さんざし》、百合《ゆり》みたよう。

ところへ、あとからつけまわす
猶太人《ジュウ》とおしゃれのおべっか屋、
脇腹《わきばら》めがけて、ぶってやろと、
かわいそなジャックにつっかかる。

そのときすばやく、すっときたは、
マザア・グウスのおばあさん、
杖《つえ》でジャックをちょいと打ちゃ、
道化の*ハアレクインにはやがわり。

つづいて、おばあさんが杖あげて、
きれいなおじょうさんをちょいと打ちゃ、
すぐにその子もはやがわり、
それこそかわいい**コランバイン。

金の卵は海の中、
どさくさまぎれにほうられる。
だけど、ジャックがとびこんで、
またももとへととりかえす。

それで、めすがちょうとった猶太人《ジュウ》のやつ、
ころしちまえといきまいた、
割《さ》いて、こいつを売っとばしゃ、
ポケットにたんまり金もうけ。

ジャックのお母さんは、それみると、
すぐにがちょうをひったくり、
そして、その背にうちのって、
お月さまめがけてとんでいった。

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 * ハアレクイン。道化|芝居《しばい》の男役です。
** コランバイン。これは女役です。
[#ここで字下げ終わり]
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まざあ・ぐうす
[#ここで字下げ終わり]
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 こまどりのお葬式《ともらい》

「だァれがころした、こまどりのおすを」
「そォれはわたしよ」すずめがこういった。
「わたしの弓で、わたしの矢羽《やば》で、
わたしがころした、こまどりのおすを」

「だァれがみつけた、しんだのをみつけた」
「そォれはわたしよ」あおばえがそういった。
「わたしの眼々《めめ》で、ちいさな眼々で、
わたしがみつけた、その死骸《しがい》みつけた」

「だァれがとったぞ、その血をとったぞ」
「そォれはわたしよ」魚《さかな》がそういった。
「わたしの皿に、ちいさな皿に、
わたしがとったよ、その血をとったよ」

「だアれがつくる、経帷子《きょうかたびら》をつくる」
「そォれはわたしよ」かぶとむしがそういった。
「わたしの糸で、わたしの針で、
わたしがつくろ、経帷子をつくろ」

「だァれがしるす、戒名《かいみょう》をしるす」
「そォれはわたしよ」ひばりがそういった。
「あかるいならば、くれないならば、
わたしがしるそ、戒名をしるそ」

「だァれがたつか、お葬式《ともらい》にたつか」
「そォれはわたしよ」おはとがそういった。
「葬《ともら》ってやろよ、かわいそなものを、
わたしがたとうよ、お葬式にたとうよ」

「だァれがほるか、お墓の穴を」
「そォれはわたしよ」ふくろがそういった。
「わたしの鏝《こて》で、ちいさな鏝で、
わたしがほろよ、お墓の穴を」

「だァれがなるぞ、お坊《ぼう》さんになるぞ」
「そォれはわたしよ」白嘴《しらはし》がらすがそういった。
「経本《きょうほん》もって、小本《こほん》をもって、
わたしがなろぞ、お坊さんになろぞ」

「だァれがならす、お鐘をならす」
「そォれはわたしよ」おうしがこういった。
「わたしはひける、力がござる、
わたしがならそ、お鐘をならそ」

空《そォら》の上からみんなの小鳥が、
ためいきついたりすすりなきしたり、
みんなみんなきいた、なりだす鐘を、
かわいそなこまどりのお葬式《ともらい》の鐘を。
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 お月夜

へっこら、ひょっこら、へっこらしょ。
ねこが胡弓《こきゅう》ひいた、
めうしがお月さまとびこえた、
こいぬがそれみてわらいだす、
お皿がおさじをおっかけた。
へっこら、ひょっこら、へっこらしょ。
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 天竺《てんじく》ねずみのちびすけ

天竺《てんじく》ねずみのちびすけは、
ちびだからふとっちゃいなかった。
いつもあんよでおあるきで、
たべるときゃ断食《だんじき》ゃいたさない。

さてそこらからかけてでりゃ、
けっしてそこにはもういない。
きけば、かけてるそのときは、
どっちみちじっとしちゃいないそだ。

キイキイなくのは常々《ふんだん》だ、めちゃくちゃあばれもたまたまだ。
それがさわいでわめくときゃ、けっしてだまっちゃいなかった。
たとえねこからおそわらなくとも、
はつかねずみがただのねずみでないのは御承知だ。

ところでたしかなうわさだが、
ある日、ひょっくり気がふれて、奇態な死に方した話。
とても勘《かん》のいい、金棒引《かなぼうひ》きの人たちは、
きゃつめおっ死《ち》んだで、いきてるわけないぞといっている。
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 木のぼりのおさる

木のぼりのおさるさん、
おちたときゃ、そのときゃおちていた。

石《いィし》の上《うゥえ》のつんがらす、
飛《た》ったときゃ、そこらにゃ影もない。

りんごかじりの婆《ばば》おかみ、
二つたべたときゃ、一対たべていた。

水車場《すいしゃば》がよいの小荷駄《こにだ》うま、
てくるときゃ、じっとたっちゃいなかった。

拇指《おやゆび》ちょんぎったうしころし、
けがしたそのときゃ、血をだした。

かけっこしてゆくお供《ォとも》さん、
はやがけするときゃ、かけあしだ。

おくつそそくるくつなおし、
つくろっちゃったそのときゃ、しあげてた。

ろうそくつくるがろうそく屋、
型からひっぱいだときゃ、手にもってた。

スペインさしていった艦隊《かァんたい》、
かえったときゃ、またぞろやってきてた。
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 くるみ

ちいさな緑のお家《うち》がひとつ。
ちいさな緑のお家の中に、
ちいさな金茶のお家がひとつ。
ちいさな金茶のお家の中に、
ちいさな黄色いお家がひとつ。
ちいさな黄色いお家の中に、
ちいさな白《しィろ》いお家がひとつ。
ちいさな白《しィろ》いお家の中に、
ちいさな心《ハアト》がただひィとつ。
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 ボンベイのふとっちょ

ひとりふとっちょがボンベイにござった。
ある日、日なたでたばこのんでござった。
そこへ、ついときたはしぎという小鳥よ、
パイプひっさらってまたふいととんじまう。
そこでじれました、ボンベイのふとっちょ。
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 六ペンスの歌

うたえうたえ、六ペンスの歌を。
衣嚢《かくし》にゃごほうびの麦がある。
二十四匹《にじゅうしひき》の黒つぐみ、
焙《ほう》じこまれて、パイの中。

パイがはがれたそのときに、
すぐに小鳥がうたいだす。
もともと王さまにそなえます
きれいなお皿じゃ、そりゃないか。

  『王さまは会計院で、
   お金の御勘定《かんじょう》。

   おきさきゃお居間で、
   パンと蜜《みつ》をめしあがり。

   女中さんはお庭で、
   衣裳《いしょう》をせっせとほしている。

   そこへ小鳥が一羽とんでまいって、
   つんとはじきました、女中さんのお鼻』
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 一時

いっちく、たっちく、おうやおや。
ねずみが時計をかけあがる。
柱時計がチーンとうつ。
ねずみがすたこらかけおりる。
いっちく、たっちく、おうやおや。
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 卵

お乳のよに白い大理石の壁に、
絹《きぬ》の柔軟《しな》したうすい膜《かわ》つけて、
すいて凝《こご》った泉の中に
金のりんごがみえまする。
そのお城に戸一つないので、
どろぼうどもまでわりこんで金のりんごをぬすみだす。
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 朝焼け夕焼け

朝焼け小焼け、
ひつじかいの気がかり。
夕焼け小焼け、
ひつじかいの後生楽《ごしょうらく》。
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 風がふきゃ

風がふきゃ、
まわります、
粉ひき車よ。

風がやみゃ、
とまります、
粉ひき車さ。
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 文なし

一文なしの文三郎《もんさぶろう》、文三郎をさらおうと
どろぼうどもがやってきた。
にげた、にげた、烟突《えんとつ》の素頂辺《すてっぺん》へ攀《よ》じてった。
しめた、しめたとどろぼうどもがおっかけた。
それをみて文三郎、そろっとむこうへにげおりた。
こうなりゃみつかるまい。
かけた、かけた、十五日《じゅうごんち》に十四《じゅうし》マイル、
それで、ふりむいたが、もうだァれもみえなんだ。
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 ファウスト国手《せんせい》

ファウスト国手《せんせい》はいい人で、
時々、お弟子たちをひっぱたく。
ひっぱたいて、おどらして、追ったてて、
イギリスでてからフランスへ、
フランスでてからスペインへ、
そしてまた、ひっぱたいて逆もどり。
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 とことこ床屋さん

とこ、とこ、床屋さん、
ぶたの毛かっちょくれ、
鬘《かずら》がちょっくらいりようだが、
何本、その毛がありゃたりる。
二十四《にじゅうし》本でたくさんだ。
フンとお鼻でごあいさつ。
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 おくつの中に

おくつの中におばあさんがござる、
子供がどっさり、しまつがつかない、
おかゆばっかり、パンもなにもやらず、
おまけに、こっぴどくひっぱたき、
ねろちゅば、ねろちゅば、このちびら。
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 一つの石に

一つの石に小鳥が二羽よ。
  ファ、ラ、ラ、ラ、ラルド。

一羽がとんでった、一羽がのこった。
  ファ、ラ、ラ、ラ、ラルド。

また一羽とんでった、だァれもなくなった。
  ファ、ラ、ラ、ラ、ラルド。

石だけぽっつりのォこった。たったひとりのォこった。
  ファ、ラ、ラ、ラ、ラルド。
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 コオル老王

お年寄りのコオル王は愉快なお爺《じっさ》、
愉快なお爺《じっさ》、
すぐにパイプめして、お酒杯《さかずき》めしてね、
そして胡弓《こきゅう》ひきを三人ほどおめしで。

どれの胡弓ひきもよい胡弓もちでよ、
中で一番なは王さまの胡弓よ、
 ツウイ・ツウイズル・デイ、ツウイズル・デイ。……
それそれ胡弓ひきがひきだしたよ、おききな。
だれにくらびょうか、めったにまたなかろ、
コオル王さまとその胡弓ひきよね。
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 雨、雨、いっちまえ

雨、雨、いっちまえ、
またいつかきなよ、
はよでてあァそぼに。
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 花壇にぶた

お庭の花壇にぶたがでた。
それいってとっつかめ。
小麦の畑《はたけ》にうしがきた。
はしれ、はしれ、男の子。

クリイムのおなべにねこがいる。
はしれ、はしれ、女の子。
山火事だ。
はしれ、はしれ、男の子。
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 日の照り雨

日の照り雨《あァめ》、
小半時《こはんとき》ももてぬ。
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 いばらのかげに

いばらのかげに、
ひもじさ、さむさ。
花さくかげに、
白金《しろがね》、黄金《こがね》。
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 セント・クレメンツの鐘

のぼれいそいそ、またおりなされ、
鐘はロンドン、つけば数ござる。

「オレンジにレモン」
セント・クレメンツの鐘がなる。

「標的《まと》と、標的《まと》の星」
セント・マアガレッツの鐘がなる。

「煉瓦《れんが》に瓦《かわら》」
セント・ギルスの鐘がなる。

「半《ハアフ》ペンスに*ファシング」
セント・マアルチンスの鐘がなる。

「パン菓子におせんべい」
セント・ピイタアスの鐘がなる。

「二本の枝、一つのりんご」
ホワイト・チャペルの鐘がなる。

「灰かき、火ばし」
セント・ジョンスの鐘がなる。

「湯わかし、おなべ」
セント・アンヌスの鐘がなる。

「バルドペエトじいさんよう」
オルトゲエドののろい鐘。

「おまえに十シルリング貸しがある」
セント・へレンズの鐘がなる。

「いィつはろうてくれるんじゃ」
ふるいベエレエの鐘がなる。

「おいらが金持ちになったらな」
ショルジッチの鐘がなる。

「そしたらたのむよ、そのときは」
ステプニイの鐘がなる。

「おれんしったこつかい」と
ボウの
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