かわったお月夜の空や朝焼け夕焼けの色どりを心にとめて、いつも美しいあなたがたのお夢を深めてくださるよう。そうならわたしはどんなにうれしいかわかりません。
 この本の中の童謡はおもにそのマザア・グウスから訳したのですが、そのほかにもイギリスやアメリカの子供のうたっているので違ったのがたくさんつけたしてあります。いろんな指あそびや、顔あそび、めくら鬼、はしご段あそびなど、日本のとちがった遊戯唄をおしまいのほうにのせてみました。皆さんでひとつやってくださるとうれしいと思います。
 これからもまだいろんなものを皆さんのために書いてお贈りしたいと思っていますが、わたしもこれからほんとに念をいれて、がちょうが金の卵をうみ落とすように、ほんとにいい童謡をぽつりぽつりと落としてゆきたいと思います。
 では、どうぞ、この本の初めにあるその金の卵の歌からよんでいってください。するときっとがちょうがあなたがたを背中にのせて、高い高いお月さまのそばまで翔《か》けてゆくでしょう。

[#天から2字下げ]大正十年九月
[#地から6字上げ]木兎《みみずく》の家にて
[#地から1字上げ]白秋しるす
[#改丁]

[#ここから2字下げ、ページの左右中央に]
序詩
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]

 マザア・グウスの歌

マザア・グウスのおばあさん、
いつもであるくそのときは、
きれいながちょうの背にのって、
空をひょうひょう翔《か》けてゆく。

マザア・グウスのすむ家《いえ》は、
一つ、ちんまり、森の中、
戸口にゃ一羽の梟《ごろすけ》が
みはりするのでたっている。

むすこがひとりで名はジャック、
その子まずまずお人よし、
ずんとよいことせぬ代わり、
ずるいわるさもようしえぬ。

市場《いちば》へジャックをやったれば、
めすのがちょうを買ってくる、
「まあまあ、お母さん、みておいで、
そのうちいいこともあるでしょよ」

それからがちょうのめすとおす
なかよしこよしであそんでる。
いつもいっしょに餌《え》をたべて、
ガアガア、お池におよいでる。

ある朝、ジャックがいってみりゃ、
(ほんに話によくきいた)
金の卵がありまする。
うんでくれたはめすがちょう。

金の卵だ、はよ告《つ》げよ、
ジャックはお母さんへとんでゆく。
お母さんもほくほくごきげんだ。
「それはよかった、おおできじゃ」


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