ちゃなくちばしと赤いちっちゃな水かきとをもったちっちゃながちょうをおひざにのっけて、赤い御本をひらいている画《え》のついた表紙のや、三角帽《さんかくぼう》のリボンに鵞《が》ペンをさしたおばあさんがテエブルの前に腰をかけて、なにか書いていると、そのそばから大きながちょうがくちばしをあけて、針の頭のように眼《め》をちっちゃくしてのぞきこんでいる画のや、がちょうとおばあさんが空を翔《か》けているのや、緑色《みどりいろ》の牧草《まきぐさ》の中に金の卵をおとしている白いめんどりのがちょうのや、いろんな本がでています。
日本ではこのわたしのが初めてです。日本の子供たちのために、わたしはこのお母さんがちょうを日本の空の上にきてもらいました。そうして空からひらひらとその唄のついたがちょうの羽根をちらしてもらったのでした。その羽根にかいてある字はイギリスの字ですから、わたしは桃色のお月さまの光でひとつひとつすかしてみて、それを日本のことばになおして、あなたがた、日本のかわいい子供たちにうたってあげるのです。そしてみんなうたえるようにうたいながら書きなおしたのですからみんなうたえます。うたってごらんなさい。ずいぶんおもしろいから。
その童謡の中には、青い萌黄色《もえぎいろ》の月の夜《よ》のお月さまをとびこえるめうしのダンスや、紅《あか》い胸のこまどりが死んで白嘴《しらはし》がらすがお経をよむのや、王さまの前のパイのお皿からうたいだす二十四匹の黒つぐみや、「パンにおせんべい」とうなるロンドンのお寺の鐘や、おうちが大火事でプッジングのおなべの下にもぐりこむてんとうむしのむすめや、赤いにしんにのまれるくろんぼうの子供や、かごにのって青天井《あおてんじょう》のすすはきしにお月さまより高くのぼるおばあさん、おくつの中に子供をどっさりいれてしまつにこまるおばあさん、挽割麦《ひきわりむぎ》を三斤《さんぎん》ぬすんでお菓子をこさえる王さまや、拇指《おやゆび》よりもちいさな豆つぶのだんなさま、赤いおわんにのって海へでるおりこうさん、気ちがいうまにのってめちゃくちゃにかけてゆく気ちがいの親子、そうした、それはもうどんなに不思議で美しくて、おかしくて、ばかばかしくて、おもしろくて、なさけなくて、おこりたくて、わらいたくて、うたいたくなるか、ほんとにゆっくりとよんで、そうしてあなたがたも今までよりもずっと
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