を心《こころ》に持《も》ちて安《やす》けくもなし 〔巻十五・三七二三〕 狭野茅上娘子
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中臣朝臣宅守《なかとみのあそみやかもり》が、罪を得て越前国に配流された時に、狭野茅上娘子《さぬのちがみのおとめ》の詠んだ歌である。娘子の伝は審《つまびら》かでないが、宅守と深く親んだことは是等一聯の歌を読めば分かる。目録に蔵部|女嬬《にょじゅ》とあるから、低い女官であっただろう。一首の意は、あなたがいよいよ山越をして行かれるのを、しじゅう心の中に持っておりまして、あきらめられず、不安でなりませぬ、という程の歌である。「君を心に持つ」は貴方をば心中に持つこと、心に抱き持つこと、恋しくて忘れられぬこと、あきらめられぬことというぐらいになるが、「君を心に持つ」と具体的に云ったので、親しさが却って増したようにおもわれる。「吾妹子《わぎもこ》に恋ふれにかあらむ沖に住む鴨《かも》の浮宿《うきね》の安けくもなし(なき)」(巻十一・二八〇六)、「今は吾は死なむよ吾妹逢はずして念《おも》ひわたれば安けくもなし」(巻十二・二八六九)等、用例は可なりある。
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