歌として優るかを判断すべきである。

           ○

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三輪山《みわやま》をしかも隠《かく》すか雲《くも》だにも情《こころ》あらなむ隠《かく》さふべしや 〔巻一・一八〕 額田王
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 この歌は作者未定である。併し、「額田王下[#二]近江[#一]時作歌、井戸王即和歌」という題詞があるので、額田王作として解することにする。「味酒《うまざけ》三輪の山、青丹《あをに》よし奈良の山の、山のまにい隠るまで、道の隈《くま》い積《つも》るまでに、委《つばら》にも見つつ行かむを、しばしばも見放《みさ》けむ山を、心なく雲の、隠《かく》さふべしや」という長歌の反歌である。「しかも」は、そのように、そんなにの意。
 一首の意は、三輪山をばもっと見たいのだが、雲が隠してしまった。そんなにも隠すのか、縦《たと》い雲でも情《なさけ》があってくれよ。こんなに隠すという法がないではないか、というのである。
「あらなむ」は将然言《しょうぜんげん》につく願望のナムであるが、山田博士は原文の「南畝」をナモと訓み、「情《こころ》アラナモ」とした。これは古形で同じ意味になる
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