とほり春日《かすが》の山《やま》は色《いろ》づきにけり 〔巻十・二一八〇〕 作者不詳
[#ここで字下げ終わり]
 この歌も伸々《のびのび》として、息をふかめて歌いあげて居る。「時雨のあめに沾《ぬ》れ通り」の句がこの歌を平板化から救って居るし、全体の具合から作者はこう感じてこう云って居るのである。「君が家の黄葉《もみぢ》の早く落《ち》りにしは時雨の雨に沾れにけらしも」(巻十・二二一七)という歌があるが平板でこの歌のように直接的なずばりとしたところがない。また「霍公鳥《ほととぎす》しぬぬに沾《ぬ》れて」(同・一九七七)等の例もあり人間以外の沾《ぬ》れた用例の一つである。結句の「色づきにけり」というのは集中になかなか例も多く、「時雨の雨|間《ま》なくし零《ふ》れば真木《まき》の葉もあらそひかねて色づきにけり」(同・二一九六)もその一例である。

           ○

[#ここから5字下げ]
大坂《おほさか》を吾《わ》が越《こ》え来《く》れば二上《ふたがみ》にもみぢ葉《ば》流る時雨《しぐれ》零《ふ》りつつ 〔巻十・二一八五〕 作者不詳
[#ここで字下げ終わり]
 大坂は大和|北葛城《きた
前へ 次へ
全531ページ中351ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
斎藤 茂吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング