ならぬだろう。その証拠には、此処に引いた用例は皆旅人以後で、旅人の口吻の模倣といってよいのである。それから、結句の、「悲しかりけり」であるが、これは漢文なら、「独り断腸の泣《なみだ》を流す」というところを、日本語では、「悲しかりけり」というのである。これを以て、日本語の貧弱を云々してはならぬ。短詩形としての短歌の妙味もむずかしい点も此処に存するものだからである。大体以上の如くであるが、後代の吾等から見れば、此歌を以て満足だというわけには行かぬ。それはなぜかというに、思想的抒情詩はむずかしいもので、誰が作っても旅人程度を出で難いものだからである。併しそれを正面から実行した点につき、この方面の作歌に一つの基礎をなした点につき、旅人に満腔《まんこう》の尊敬を払うて茲《ここ》に一首を選んだのであった。
旅人の妻、大伴郎女の死した時、旅人は、「愛《うつく》しき人《ひと》の纏《ま》きてし敷妙《しきたへ》の吾が手枕《たまくら》を纏《ま》く人あらめや」(巻三・四三八)等三首を作っているが、皆この歌程大観的ではない。序にいうが、巻三(四四二)に、膳部王《かしわでべのおおきみ》を悲しんだ歌に、「世の中は
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