だから此疑問は随分古いものだということが分かるが、その精しい考証は現在の私には不可能である。攷證では、「この御製は、女をおぼしめして詠せ給ふにて」と明かにしている。
 一首の意は、山の端をば味鴨《あじがも》が群れ鳴いて、騒ぎ飛行くように、多くの人が通り行くけれども、私は寂しゅうございます、その人々はあなたではありませぬから、というので、やはり女性の歌として解釈するのである。そんなら作者は後岳本天皇即ち斉明天皇にましますかというに、それも私にはよく分からぬ。ただ岳本天皇御製とあるのだから、天皇がこういう恋愛情調をたたえた民謡風な抒情詩を御作りになったと解釈申上げてもよく、或は岳本天皇時代のこの抒情詩が、天皇御製歌として伝誦せられ来ったとも解釈することが出来るのである。いずれにしても歌は女性の口吻《こうふん》であること既に前賢が注意したごとくである。次に、この歌の、「あぢ群さわぎ行くなれど」の句をば、実際あじ鴨の群が飛んでゆくのを御覧になったのか、それとも譬喩《ひゆ》で、あじ鴨が騒いで飛行くように人が群れ騒ぎ行くというのか、先輩の解釈にも二とおりある。けれども私は「山の端にあぢ群さわぎ」は
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