とがあるだろうか、もはやそれは叶《かな》わぬことだ。こうして年老いて辺土に居れば、寧楽《なら》の都をも見ずにしまうだろう、というので、「をつ」という上二段活用の語は、元へ還ることで、若がえることに用いている。「昔見しより変若《をち》ましにけり」(巻四・六五〇)は、昔見た時よりも却って若返ったという意味で、旅人の歌の、「変若」と同じである。
旅人の歌は、彼は文学的にも素養の豊かな人であったので、極めて自在に歌を作っているし、寧ろ思想的抒情詩という方面にも開拓して行った人だが、歌が明快なために、一首の声調に暈《うん》が少いという欠点があった。その中にあって此歌の如きは、流石《さすが》に老に入った境界の作で、感慨もまた深いものがある。
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わが命《いのち》も常《つね》にあらぬか昔《むかし》見《み》し象《きさ》の小河《をがは》を行《ゆ》きて見むため 〔巻三・三三二〕 大伴旅人
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旅人作の五首中の一首である。一首の意は、わが命もいつも変らずありたいものだ。昔見た吉野の象の小川を見んために、というので、「常にあらぬか」は
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