四・四九五)の例が参考となる。また、「かけて偲ぶ」という用例は、その他の歌にもあるが、心から離さずにいるという気持で、自然的に同感を伴うために他にも用例が出来たのである。併しこの「懸く」という如き云《い》い方はその時代に発達した云い方であるので、現在の私等が直ちにそれを取って歌語に用い、心の直接性を得るという訣《わけ》に行かないから、私等は、語そのものよりも、その語の出来た心理を学ぶ方がいい。なおこの歌で学ぶべきは全体としてのその古調である。第三句の字余りなどでもその破綻《はたん》を来さない微妙な点と、「風を時じみ」の如く圧搾《あっさく》した云い方と、結句の「つ」止めと、そういうものが相待って綜合《そうごう》的な古調を成就しているところを学ぶべきである。第三句の字余りは、人麿の歌にも、「幸《さき》くあれど」等があるが、後世の第三句の字余りとは趣がちがうので破綻|云々《うんぬん》と云った。「つ」止めの参考歌には、「越の海の手結《たゆひ》の浦を旅にして見ればともしみ大和しぬびつ」(巻三・三六七)等がある。
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秋《あき》の野《ぬ》のみ草苅《
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