、恐らくこの歌の模倣だろうと想像すれば、既に古歌として伝誦せられ、作歌の時の手本になったものと見える。「黒馬」といったのは印象的でいい。
巻十三から選んだ短歌は以上のごとく少いが、巻十三は長歌で特色のあるものが多い。然るにこの選は長歌を止めたから、その結果がかくのごとくになった。
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巻第十四
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夏麻《なつそ》引《ひ》く海上潟《うなかみがた》の沖《おき》つ渚《す》に船《ふね》はとどめむさ夜《よ》ふけにけり 〔巻十四・三三四八〕 東歌
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この巻十四は、いわゆる「東歌《あずまうた》」になるのであるが、東歌は、東国地方に行われた、概して民謡風な短歌を蒐集《しゅうしゅう》分類したもので、従って巻十・十一・十二あたりと同様作者が分からない。併し、作者も単一でなく、中には京から来た役人、旅人等の作もあろうし、京に住んだことのある遊行女婦《うかれめ》のたぐいも交っていようし、或は他から流れこんだものが少しく変形したものもあり、京に伝達せられるまで、(折口博士は、大倭宮廷に漸次に貯留せられたものと考えている。)幾らか手を入れたものもあるだろう。そういう具合に単一でないが、大体から見て東国の人々によって何時《いつ》のまにか作られ、民謡として行われていたものが大部分を占めるようである。従って巻十四の東歌だけでも、年代は相当の期間が含まれているものの如く、歌風は、大体|訛語《かご》を交えた特有の歌調であるが、必ずしも同一歌調で統一せられたものではない。
「夏麻《なつそ》ひく」は夏《なつ》の麻《あさ》を引く畑畝《はたうね》のウネのウからウナカミのウに続けて枕詞とした。「海上潟」は下総《しもうさ》に海上《うなかみ》郡があり、即ち利根《とね》川の海に注ぐあたりであるが、この東歌で、「右一首、上総国《かみつふさのくに》の歌」とあるのは、古《いにし》え上総にも海上郡があり、今市原郡に合併せられた、その海上《うなかみ》であろう。そうすれば東京湾に臨《のぞ》んだ姉ヶ崎附近だろうとせられて居る。一首の意は、海上潟の沖にある洲《す》のところに、船を泊《と》めよう、今夜はもう更《ふ》けてしまった、というのである。単純素朴で古風な民謡のにおいのする歌である。「船はとどめむ」はただの意嚮《いこう》でなく感慨が籠っていて
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