遍路
斎藤茂吉

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)那智《なち》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)国|諏訪《すわ》
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 那智《なち》には勝浦《かつうら》から馬車に乗って行った。昇り口のところに著《つ》いたときに豪雨が降って来たので、そこでしばらく休み、すっかり雨装束《あましょうぞく》に準備して滝の方へ上って行った。滝は華厳《けごん》よりも規模は小さいが、思ったよりも好かった。石畳《いしだたみ》の道をのぼって行くと僕は息切《いきぎ》れがした。
 さてこれから船見峠《ふなみとうげ》、大雲取《おおくもとり》を越えて小口《こぐち》の宿《しゅく》まで行こうとするのであるが、僕に行けるかどうかという懸念があるくらいであった。那智権現《なちごんげん》に参拝し、今度の行程について祈願をした。そこを出て来て、小さい寺の庫裡口《くりぐち》のようなところに、「魚商人門内通行禁」と書いてあり、その側に、「うをうる人とほりぬけならん」と註してあった。

 滝見屋《たきみや》というところで、腹《はら》をこしらえ、弁当を用意し、先達《せんだつ》を雇っていよいよ出
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