、『ちよつと其《それ》を書いて置きませうか』と云つて、それから不二子さんもそれをすすめると、『書いちやいかん。それだでこまる』『みどころを取つて行かれるやうだ』と云つたさうである。
 そのうち腰の痛みが出て来た。『水脈《みを》坊水脈坊。お客様がゐていやかも知れんがおさへて呉れなくちや』と云つた。それから、『飲物《のみもの》も食物《たべもの》も皆さげてくれ。目のまへにあると溜《た》まらんから』と云つたさうである。その時|按摩《あんま》が来たので皆が部屋を退いた。その時古実君に、『訂正を送つて呉れたか』と云つた。『はい、送りました』と答へると『確《たしか》だな』と念を押したさうである。この訂正といふのは、雑誌改造に出した、『風呂桶《ふろをけ》に触《さは》らふ我の背の骨のいたくも我は痩《や》せにけるかな』の下《しも》の句を『斯《か》く現れてありと思へや』と直し、憲吉・古実君の意見をも徴して、其をアララギの原稿にしたのである。それを謂《い》ふのである。尚《なほ》今雑誌を調べて見ると改造に出した歌をアララギでは少しづつ直してゐる。
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信濃路《しなのぢ》に帰り来《きた》りてう
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