流してゐる風であつた。兎《と》も角今夜アララギ発行所に来てもらひたい旨をいつて電話を切つた。
午後に僕は妹を弔ひに行つた。妹は安らかな顔をして死んでゐた。妹が生んだ大きい方の女の子は珍らしい客が来るので切《しき》りにはしやいでゐるのも、ひどく僕を感動せしめた。夕刻に妹の家を辞して、途中で蕎麦《そば》を食ひ、その足でアララギ発行所に行つた。
発行所で今夜は、同人《どうにん》の重立《おもだ》つた人々に来て貰《もら》つて、今日まで秘《ひ》して居つた島木赤彦君の病気の経過を報告しようとしたのであつた。席には土屋文明君、橋本福松君もすでに見えてゐた。僕は同人の重だつた人々に赤彦君の疾病《しつぺい》の経過の大体を話し、一月廿一日に伴《ばん》さんから胃癌の宣告を受けたこと。二月二日に胃腸病院の神保孝太郎《じんぼかうたらう》博士の診察を受けたこと。次いで佐藤|三吉《さんきち》博士の診察を受けたこと。今はすでに重篤の状態にあることをも云つた。そして、赤彦門下の三人の女流は岡|麓《ふもと》さんと一しよに明日|信濃《しなの》に立つこと。そのほかの諸君は病気の邪魔になるから行かぬことを約したのであつた。同
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