心尽しをされるのであつた。僕等は忝《かたじけな》く馳走になつた。
 午後三時に伴さんが見えて、注射を二とほりされた。僕もそのとき同坐した。注射の一つは強心の方の薬で、一つは神経痛のための薬であつた。この注射は赤彦君から進んで所望されるので、今朝から催促されてゐたものである。それから一時間ばかり経つて僕等は二たび病牀を見舞つた。その時には赤彦君は珍らしく機嫌|好《よ》くていろいろの話をした。これは強心の方の薬にコフエンが入つてゐるので、それが神経に働いたためであらうか。角館《かくのだて》中学校の校歌の話になつたとき、『つまり茶話《ちやわ》会などの時に歌ふのもあつていいですね。何とか謂《い》つた。佐竹義敦《さたけよしあつ》、小田野直武《をだのなほたけ》は日本洋画の紅《こう》二点、といつた調子ですね。デカンシヨ式でも好し。男《をとこ》美術に女《をんな》の美術、美術美術で苦労する、と云つた調子ですね』『天《てん》にそびゆる秋田の杉も巌《いは》を貫く根元《ねもと》から。それから、行つて見たかや田沢《たざは》の湖《うみ》へ、そこの浮木《うきぎ》の下のみづ。かういふのは幾らでも出ます。校歌の方は一遍
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