鯉
齋藤茂吉
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)川前《かはまへ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)ある日|楯岡《たてをか》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#二の字点、1−2−22]
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大石田に来てから、最上川に大きな鯉が居るといふ話を一再ならず聞いた。今は大石田町に編入されたが、今宿(いましゆく)といふ部落の出はづれで、トンネルのあるところの山を切開いた新道、つまり従来ヘグリと云つてゐた断崖に沿うて流れる最上川の底は堅い巌石の層で、その地方の人のいふバンから出来て居る。平たい巌のことをバンと云ふらしいが、そのバンが深い洞窟となつてゐる箇処があつて、其処が大きな鯉群の隠場処だといふ話も聞いた。夏で最上川の水の減少した時でも、そのあたりの深さは四丈即ち四十尺或はそれ以上あるといふことである。土地の人某が縄をさげて計つた結果がさうであつた。
最上川には処々に鯉群が居るけれども、鯉の話をするものは先づ其処のことを話すのが常
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