も大増水したが、一尾の大きな赤い鯉が、対岸横山村の小さい支流にのぼつて来たのを村民の一人が捕へて、私の厄介になつてゐる二藤部さんのところに売りに来た。この緋鯉はやはり二尺八寸ばかりあり、実に立派であつた。
 この大きな赤い鯉は、ヘグリあたりの静かなところに居たのであつただらうが、濁水が余りひどいので、それを避けて、小さい支流へのぼつたものと見える。さう想像するとこの赤い鯉の運命の如きものもただ看過してしまふわけには行かないであらう。

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最上川に住む鯉のこと常におもふ※[#「口+嶮のつくり」、第4水準2−4−39]※[#「口+偶のつくり」、第3水準1−15−9]《あぎと》ふさまもはやしづけきか
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 これは昭和二十一年大石田の初冬に作つた一首である。最上川に大鯉の住むといふことは、一たびは疑つて見たが、もはや疑ふことが出来なくなつた。されば、寧ろ想像で出来たこの歌をば事実として立証することが出来るまでになつた。彼等魚族も、秋に沢山物を食つて、いよいよ冬の休息に入るやうになる。休息時には彼等のする※[#「口+嶮のつくり」、第4水準2−4−39
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