龍土會の記
蒲原有明

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 龍土會といつても誰も知る人のないぐらゐに、いつしか影も形もひそめてしまつてゐる。そのやうに會はたとへ消滅したものであるにしても、會員であつた人々は殘つてゐなくてはならないが、さて自分が會員であつたと名のりを揚げる特志者はまづ無いといつてよいだらう。然しどうやら會合のやうなものが存在して、そこへ最初から出席した二三のものには、今日でもなほ幾許かの追懷の情が殘つてゐるはずである。
 その龍土會が實は終末期に臨んでゐて、却て外面だけは賑やかに見えてゐた時代のことである。毎月のやうにふえる新顏が、こつそりと會の正體を覗きにくる。何ともさだかならぬこの會合が文藝革新に關する或野心を包藏して、文壇一般を脅かすかのやうに、側からは見られてゐたのである。自然主義の母胎もまさしく此處であり、更にまた半獸主義、神祕主義、象徴主義などの、新主義新主
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