れる。巻くことが展《ひろ》げることと同義になる。巻くというのも展げるというのも畢竟《ひっきょう》形式である。形式はその内容をなす生命の流動によって活《い》かされるのである。
生命は渦動する。新旧交替の時期において、人文はその渦動に催されて一歩進める。ただの一歩とは言え、それは創造世界への開展のきざしであり、はやくも革新を約束された社会にあっては重圧の土を破る。そして個性の穎割《えいかつ》が認められるようになり、外来文化の刺戟ともろもろの発見とを緒として次第に学問芸術の華《はな》が咲き匂う。
鶴見はここまで一気に考えつづけて来て、ほっとして、溜息をついた。こんな風に特異な考察をめぐらしたことはこれまでついぞなかった。それだけに、重荷を背負って遠い途《みち》にかしまだちするようにも感ぜられる。またそれだけの余力がこの老年の身にもなお残っていたのかということが訝《いぶ》かしくも感ぜられる。いずれにしてもそう感ずることが、即ち若返りの徴でなくてはならない。鶴見は強《し》いてそう思ってみた。それがまた彼を力づけた。
機縁はすでに釈迢空《しゃくちょうくう》さんの『死者の書』によって作られた
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